2016年 美術検定 解答

1級記述式問題

記述式問題は全4題です。

[短文記述問題]

Q1 美術館が主催するギャラリー・トークと講演会の目的を、
「双方向性」と「多数」の2語を用いて説明して下さい。

解答例

前者は来館者の作品鑑賞を深めるため、美術館スタッフが展示室で行う作品解説などを指す。少人数を対象とし、意見交流などの双方向性をもたせやすい。後者は多数の聴衆を対象にした講演で、展覧会などに関わる知識や鑑賞を深めることを目的に、特定のテーマに沿った内容について研究者や学芸員が話す。(140字)

Q2 琳派とヨーロッパ美術との接点について、
日本と西洋の作家名を挙げて説明して下さい。

解答例

琳派は、桃山文化末期の本阿弥光悦、俵屋宗達を祖とし、江戸期の尾形光琳や酒井抱一らに私淑によって受け継がれた。装飾性とデザイン性に富んだ表現方法を特徴とする。ウィーン分離派のグスタフ・クリムトの代表作『接吻』には、金箔の用い方や装飾性、デザイン性など琳派の特徴との共通点が見られる。(140字)

[長文記述問題]

Q3 問題3をPDFで開く

解答例

タイトル:より人間らしく
 西洋美術に長く影響を与えるイタリア・ルネサンス。その流れを俯瞰できる絵画展の数ある見どころから、「人間らしさの追求」に絞って展示作品を紹介したい。
 15世紀のフィレンツェでは、キリスト教の制約下にあった芸術表現から人間性を解放する機運が高まる。例えば、人の視覚を再現しようと遠近法を用いた《聖三位一体》、身近な植物を再現した《ヴィーナスの誕生》のように、現実の世界や自然に美を見出したのである。その後、ヴェネツィアでは油彩技法の発展に伴い、より豊かな色彩や描写で人間的な美しさも表すようになった。それを象徴するのがティツィアーノの《ウルビーノのヴィーナス》だろう。女神像でありながら人間的な表情と、生き生きとした女性美が表現されている。さらに画家が求める理想の美を表したような官能性も感じる。この作品は19世紀にマネが描いた《オランピア》の原型とされる。しかし、マネはルネサンス期の写実描写とは異なり、人間の生き様や社会の現実にある美を描こうとした。
 ルネサンスの「人間らしさの追究」精神は、後の芸術家たちによって、批判的に受け継がれているようだ。このような視点で絵をみると、さらに興味深くなると思う。(499字)

Q4 問題4をPDFで開く

解答例

 巴水の作品では、道が手前から上へ延び、遠くの山を仰ぐようで、坂道を人が下ってきているところは、高いところから見下ろしているようです。平らな画面なのに、なぜこのような景色の広がりを感じられるのでしょう。
 中国では、縦長の画面では上の方に見上げるような遠くの景色を、下の方に近くのものを広がるように描く独自の方法で、風景の奥行きなど立体的な広がりを表しました。日本の絵もこの方法に影響を受けたのです。一方、西洋では、ものが小さくなって見えなくなる点を仮に決め、そこから近くのものまで放射状に線があると想像して、ものの見え方が釣り合うよう、空間の立体感を表しました。①の絵では、道の奥の1点から手前に向かって、道や並木の列が規則的に、次第に大きくなるよう描かれています。この表し方を線遠近法といいます。①より前は、②の絵のように、大画面に遠くのものを小さく、近くのものや大切なものを大きく描き、見る人の視線を大きく動かすことで空間の広がりを表したのです。
 明治生まれの巴水は、東洋の表し方を土台に、道の手前は大きく、柵をだんだん細く間隔をせまく描くという西洋の遠近法を組み合わせ、奥行きを表したようです。(497字)
※解答例は、合格者の解答に一部加筆修正したものです。解答の一例としてご参照下さい。

■採点のポイント


[短文記述問題 (Q1・Q2 共通)]

美術に関する基礎知識について正確に理解し、適切な記述がなされているかどうか、を以下の三段階で評価。
・正確な記述がされており妥当
・一部適切でない記述があり妥当性に欠ける
・誤った記述が多く、努力を要する

【Q1】

普及事業についての基礎知識を確認する設問。「双方向性」「多数」の2語の使用が指定されていることから、ギャラリー・トークと講演会、それぞれの特性を対比的に取り上げることを求めている。一方だけについて述べた答案、普及事業について包括的に述べた答案がみられた。出題意図を適切に把握することが求められる。

【Q2】

琳派とヨーロッパ美術の接点については、ウイーン分離派グスタフ・クリムトの金箔の多用が典型例として挙げられる。アール・ヌーヴォーの工芸に、その影響を見る論もある。印象派、ポスト印象派に影響を与えたのは浮世絵版画で、琳派と直接的な接点はないが錯誤した答案が多くあった。なお「箔」に誤字が多くみられた。


[長文記述問題]

各設問それぞれ以下の3つのポイントについて、各資料を元に自分なりの解釈で、
伝える相手に適切な論を展開しており、妥当であるかどうかを評価。

【Q3】

(1)コミュニケーション
美術に詳しくない読者が十分に理解できる紹介文になっており、
展覧会を見に行こうとする気持ちまで高める内容になっている
(2)資料読解・活用
タイトルは資料Aの内容を十分に反映しており、紹介記事では
複数のキーワードと作品が適切に関連づけて活用されている
(3)論理的構成力
イタリアルネサンスの精神、絵画技法、主題、後世への影響などについて十分に理解し、
それらが論理的に校正されたまとまりとして展覧会を紹介している

【Q4】

(1)コミュニケーション
小学校6年生が理解できる平易な言葉を用いながら、
「奥行き」を視点に作品が鑑賞できるように説明している
(2)資料読解・活用
3つの資料から適切に情報を取り出し、
これらを「塩原おかね路」の奥行き表現と関連づけながら説明している
(3)論理的構成力
「塩原おかね路」の奥行きの表し方について、遠近表現の文化的相違や
画面の形などの要素を、作品の表現や部分などと具体的に結びつけながら、
論理的に説明文を構成している