2017年 美術検定 解答

1級記述式問題

記述式問題は全3題です。

[短文記述問題]

Q1 美術館の機能である「保存」と「展示」の関係について、「劣化」「普及」「矛盾」の3語を使って説明してくだ さい。

解答例

後世に文化財を伝えるための作品保存と、普及のための作品展示は、作品の劣化という観点からは矛盾した関係にある。しかし、美術館では、劣化を防ぐ収蔵庫や展示の環境と防災・防犯対策を整備し、学芸員らによる正しい作品の取り扱い、展示期間や展示方法の工夫などで、保存と展示の両立に努めている。(140字)

Q2 フィンセント・ファン・ゴッホが歌川広重から受けた影響について、「構図」と「模写」の2語を使って説明し てください。

解答例

ゴッホは浮世絵をみるだけでなく、歌川広重の「大はしあたけの夕立」などを油彩で模写することで、その構図や色彩を学んだと言われている。ゴッホの「雪景色」に見られるような、画面の高い位置に地平線を配置し、画面右上から左下へ流れるような構図は、広重の雪景色のアレンジと解釈されている。(138字)

[長文記述問題]

Q3 問題3をPDFで開く

解答例

 印象派の巨匠、モネが生きた時代は、ヨーロッパで産業革命が進行し、パリが大都市化していった時期です。産業革命は、都市生活者を増加させ、鉄道の発達により休日は郊外で自然を楽しむという、人々のライフスタイルの変化を生み出しました。また、写真の普及や、万国博覧会を通じた日本の文物の流行は、パリの画家たちに新しい視覚体験をもたらしたのです。モネもその体験をしたひとりでした。
 モネの「睡蓮と日本橋」の舞台は、彼が日本の自然観などに憧れて、パリ郊外のジヴェルニーに造園した庭の風景です。画面の中央には太鼓橋、その下には手前から奥に続く睡蓮が浮かぶ池、そして池の周りを囲むように葦や柳などが描かれています。復元されたモネの庭の写真でも、同じような風景が広がっていることから、モネが自分の身近にある現実の風景を絵画化したことがわかります。写真では、池に群生した睡蓮が点在し、睡蓮が浮かんでいない水面には柳や周りの植物が映り込み、そこが水鏡のようにみえます。実はモネの絵にも、睡蓮のまとまりとまとまりの間に、水に映る植物の像が描かれています。実体を持たない光を画面に描こうとしたモネは、睡蓮の花や葉に当たる光、水面に反射する光、光が映す植物の像を、さまざまな色彩とタッチで画面に描き出していったのです。ただ、人間の視覚は、カメラのオートフォーカスのように一度にいろいろな場所にピントを合わせることはできません。ルネサンス以降の西洋絵画も、人間の視覚を再現するために1点透視図法という技法に磨きをかけてきました。でも、モネの絵を見ると、庭の写真と同じように、彼が画面上のいろいろなところにピントを合わせて絵を完成させたことが見えてきます。このモネの視覚は、写真が一般に普及したこの時代だから得られたものと言えるでしょう。一方、モネは日本の浮世絵の構図なども、西洋絵画の伝統にとらわれない新鮮なものとして受け止め、研究を重ねています。「睡蓮と日本橋」の構図や視点が西洋の古典的な絵画と一線を画することができたのは、浮世絵の研究ができた近代社会の産物とも言えるのではないでしょうか。
 モネが描いた明るい色調の風景は、都市生活者たちが好んだ、あるいは憧れた自然の姿でした。しかし、彼が描き出したのは、風景そのものだけでなく、近代社会が生み出した視覚だったとも言えるでしょう。(995字)
※解答例は、合格者の解答に一部加筆修正したものです。解答の一例としてご参照下さい。

■採点のポイント


[短文記述問題 (【1】・【2】 共通)]

美術に関する基礎知識について正確に理解し、適切な記述がなされているかどうか、を以下の三段階で評価。
・正確な記述がされており妥当
・一部適切でない記述があり妥当性に欠ける
・誤った記述が多く、努力を要する

【1】講評

美術館の機能である展示と保存の関係に関する設問。 使用が指定されている3語によって、両者がトレード オフの関係にあることは前提として示されている。矛盾していることを結論とする解答が多く見られたが、解決の方策を研究し続け、可能な最善の妥協点を探ることが 美術館の役割であることにまで制限字数で言及する ことを求めている。

【2】講評

ゴッホが浮世絵から受けた影響について基礎知識を問う問題。粉本となった浮世絵についての知識が曖昧で ある解答が見られた。「大はしあたけの夕立」「亀戸梅屋敷」は「名所江戸百景」の一図であり「東海道五十三次」ではない。また「紅白梅」とする解答も多くあった。 重要作家・作品名等の固有名詞は正確に記憶したい。


[長文記述問題](【3】)

以下の4つのポイントについて、各資料を元に自分なりの解釈で、伝える相手に適切な論を展開しており、妥当であるかどうかを評価。

(1)コミュニケーション
美術に詳しくない読者が理解できる説明文であり、十分に作品鑑賞の手助けとなっている
(2)資料読解・活用
モネ作品の時代性や技法などについて正しく理解した上で、作品の表現やモチーフを具体的に結びつけながら、テーマを十分に咀嚼した説明をしている
(3)論理的構成力
説明は、序論・本論・結論で構成されており、論旨に一貫性がある
(4)資料読解・活用
3つの資料を適切に読み取り、必要な情報を取り出し活用している