2018年 美術検定 解答

1級問題

[問題B]

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解答例

 2つの作品は描かれた時代も場所も違う。まず、《聖者と聖母子》をみてみよう。これは6世紀に東ローマ帝国で流行した、ビザンティン美術と呼ばれる表現様式で描かれたイコン、聖像画である。幼いイエスと聖母マリアを中心に、左右には聖人を配し背後には天使が描かれた、極めて宗教的な題材の作品だ。次に、19世紀にパリで活躍した印象派の女性画家、メアリー・カサットの《家族》に眼を移してみよう。裸の幼子を抱く母親に少女が寄り添う姿を、軽やかなタッチと鮮やかな色彩で描いている。
 両者は一見すると、母子像という以外に接点がないように思える。だが、よくみていくといくつかの共通点に気付く。1つ目は、平面的な画面構成である。カサット作品の服の描写に注目すると、ややのっぺりとしており、幼子のふっくらした体つきとは対照的だ。どちらかというと、イコンに描かれたマリアの服装の表現に近いものがあるだろう。また、両者ともにはっきりと描かれた輪郭線が、画面に安定感をもたらしている。2つ目は、テーマである。カサットの作品は、微笑ましい親子の像にみえる。しかし、母親の頭部を頂点にした構図は、ルネサンス期の「聖母子像」にヒントを得ている。また、少女が持つカーネーションは、キリスト受難の兆しの寓意だという。そこに我が子の行先を重ねたととらえると、キリスト教につながる理解も可能な作品ともいえるだろう。
 では、相違点はどうか。イコンに描かれた聖母子は、立体感がなく、表情も硬く、抽象的である。これは、当時のイコンに最も重きを置かれたのは、神としてふさわしい姿を表すことだったからだ。マリアやイエスが人間らしく描かれることではなく、神としてそこに表現されていることが重要だったのである。一方、カサットの母子像では、母親の子どもへの憂いと愛情が最も重視されている。母親はやわらかな眼差しを幼子に向ける。そして、寄り添う少女と子どもの視線によって、鑑賞者の視線は画面の中心の母子に注がれていく。印象派に特徴的な明るい色彩が、一層画面を引き立てる。
 2作品の比較から、母子像という画題は、時代により、何を表現することに重きを置くかにより、描かれ方や注力するポイントが異なっていることがみえてきたと思う。描いた時代や表現方法だけではなく、ほかの作品と比較しながら鑑賞することも多様な理解を深めることにつながると、わかっていただければうれしい。(998w)
※解答例は、合格者の解答に一部加筆修正したものです。解答の一例としてご参照下さい。

■出題・採点のポイント


【問題A】

●講評

アートプロジェクトの意義に関する問題。「リノベーション」「サイトスペシフィック」など、基本的な用語の正確な意味を把握し、更にプロジェクトに対して多面的な評価が存在することをわきまえているか否かを問うている。比較的容易な問題であり、正答率も高かった。Q5では「ミュンスター・スカルプチャー・ プロジェクト」の経緯に関する具体的な知識が求められるが、代表的かつ重要な事例であるので知識としておさえて置いて欲しい。


【問題B】

1)コミュニケーション力

美術に詳しくない読者が理解できる、 作品鑑賞の手助けとなる文章になっているか

2)テーマ性

テーマを適切に解釈し、作品の表現を具体的に結びつけて テーマを説明しているか

3)比較鑑賞力

2作品からそれぞれ適切な表現やモチーフなどを具体的に取り上げ、 テーマに沿った比較を十分に行ない共通点や相違点を明確にしているか

4)論理的構成力

序論・本論・結論で構成されており、論旨に一貫性があるか

5)資料読解・活用

2作品をしっかり観察し、資料を適切に解釈して必要な情報を取り出し、一般向け手引きとして相応しい文章化ができているか


●講評

解説に要する史実はすべて資料として示されており、単に知識の正確さを問う問題ではない。来館者向け「手引き」として要領よくまとめ上げる工夫を求めている。各資料を適切に用いることを指示しているが、引用の切り貼りに終始するぎこちない文章の答案が若干目立った。自己の独自の解釈を披瀝するような答案もみられたが、一般向け手引きとして適切ではない。